1994年(平成6年)4月26日午後8時15分、愛知県・名古屋空港(現・名古屋飛行場)に着陸進入中の中華航空(チャイナエアライン)140便(A300-600R型機)が突然機首を上げ、失速して滑走路手前の草地に墜落・炎上した。乗客乗員271名のうち264名が死亡、7名が生存した。
副操縦士が誤って「復行(ゴーアラウンド)モード」のレバーに触れたことで、自動操縦が機首を上げようとし始めた。それを打ち消そうと操縦士が機首を下げる操作をしたが、A300-600Rの設計ではオートパイロットが「上げ」の指令を出し続けた。人間とコンピュータの「綱引き」の末に機体は失速した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日時 | 1994年4月26日 午後8時15分 |
| 発生場所 | 愛知県・名古屋空港(滑走路手前) |
| 死者 | 264名(乗客乗員271名中) |
| 生存者 | 7名 |
| 機種 | エアバスA300-600R型機 |
| 直接原因 | 副操縦士の誤操作によるGO AROUNDモード起動と対処の失敗 |
時系列:着陸進入から墜落まで
| 時刻 | 出来事 |
|---|---|
| 20:14ごろ | 着陸進入開始。自動操縦・自動スロットル作動中 |
| 20:14:30ごろ | 副操縦士が誤ってGO AROUNDレバーに接触。オートパイロットが復行(上昇)モードに切り替わる |
| 20:14〜20:15 | 機首が上がり始める。操縦士が機首を下げようとするがオートパイロットと相反する操作が続く |
| 20:15:16 | 機体が急激に機首上げ姿勢となり失速 |
| 20:15:24 | 滑走路手前の草地に墜落・爆発炎上 |
A300-600Rの設計問題:なぜオートパイロットが人間の操作に勝ったのか
GO AROUNDモードが起動すると、このモデルのオートパイロットは機首上げの指令を出し続ける。この状態で操縦士が逆に機首を下げようと操縦桿を押しても、操縦桿の操作が一定量以下の場合はオートパイロットが自動的に制御を維持し続ける設計だった。つまり「人間が操縦桿を押しているのに、コンピュータは機首を上げ続ける」という状態が何十秒も続いた。操縦士は「操縦桿を押しているから機首が下がるはず」と思いながら、実際には機体が上を向き続けていた。この「コントロールの錯覚」が、失速から墜落に至るまでの貴重な時間を失わせた。
乗務員の訓練不足という問題
日本の航空事故調査委員会の調査報告書は、乗務員がA300-600Rの自動操縦システムの特性を十分に理解していなかったことを問題として指摘した。特に「GO AROUNDモードが起動した場合の解除手順・オートパイロットと手動操縦の切り替え方法」について、乗務員の訓練が不十分だった可能性がある。「高度に自動化された航空機の特性を操縦士が完全に理解して使いこなす」という課題は、この事故以降「オートメーション・サプライズ」と呼ばれる航空安全上の重要テーマとして認識されるようになった。
エアバスのシステム変更と業界への影響
事故後、エアバス社はA300-600Rの自動操縦システムを改修した。操縦士が操縦桿を一定量以上押した場合は、自動的にオートパイロットが解除される設計に変更された。「人間の意志がコンピュータより優先される」という原則を、ソフトウェアに組み込んだ改修だ。また世界中の航空会社で、A300-600R型機を運航する乗務員への特別なシステム教育が強化された。
この事故が変えたもの
- 「オートメーション・サプライズ」問題の認識:高度に自動化された航空機で乗務員がシステムの挙動を誤解することの危険性が業界の重要課題となった
- エアバスA300-600Rのシステム改修:人間の操縦入力がオートパイロットに優先されるよう設計変更
- 名古屋空港の機能変化:国際線が中部国際空港(セントレア)へ移転した経緯と関連する
探偵コラム:「コンピュータと人間、どちらが正しいのか」という問い
「人間の操作」と「コンピュータの指令」が矛盾したとき、どちらが正しいのか——この問いは、自動化が進む現代のあらゆる分野に共通する。航空機のオートパイロット、自動運転車、医療の診断AI——高度に自動化されたシステムにおいて「人間の意志」と「コンピュータの判断」の優先順位をどう設計するかは根本的な問いだ。
名古屋の264名の死は「コンピュータが人間の意志より強くなった瞬間に何が起きるか」を最悪の形で示した。「人間が最終的な判断者であるべき」という原則を設計に組み込み続けることが、自動化時代の安全の根幹だ。
【参考資料】
・航空事故調査委員会「中華航空株式会社エアバスA300-600R型B1816事故調査報告書」(1996年)
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