2018年(平成30年)1月23日午前9時59分、群馬県草津町の草津白根山(本白根山・標高2,171m)が突然噴火した。スキー場のゲレンデに噴石が降り注ぎ、陸上自衛隊員1名死亡・11名負傷(スキー客・自衛隊員合計)。山頂付近にいたスキー客が噴石に直撃された。
この噴火は「本白根山は噴火しないと思われていた」という意味で、専門家にも衝撃を与えた。草津白根山で活発な火山活動が続いていたのは「湯釜」と呼ばれる別の火口だった。本白根山の噴火は「噴火の可能性が低い」と評価されていた場所での「想定外」だった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日時 | 2018年(平成30年)1月23日 午前9時59分 |
| 発生場所 | 群馬県草津町・草津白根山(本白根山) |
| 死者 | 1名(陸上自衛隊員・訓練中) |
| 負傷者 | 11名(スキー客・自衛隊員) |
| 噴火の特徴 | 水蒸気噴火。前兆現象がほとんど観測されなかった |
| 警戒レベル | 噴火直前まで「レベル1(活火山であることに留意)」 |
時系列:噴火発生の状況
| 時刻 | 出来事 |
|---|---|
| 午前9:59 | 本白根山の鏡池付近から突然噴火。複数の火口から噴石が噴出 |
| 噴火直後 | 草津国際スキー場のゲレンデ(天狗山第一・第二ゲレンデ)に噴石が降り注ぐ |
| 噴火直後 | スキー客・自衛隊員が噴石に直撃される。陸上自衛隊員1名死亡・11名負傷 |
| 噴火後 | 気象庁が噴火警戒レベルを1から3(入山規制)に引き上げ |
| 2月6日 | レベル2(火口周辺規制)に引き下げ |
「本白根山は噴火しないと思われていた」:観測の盲点
草津白根山で火山活動が活発だったのは「湯釜」という火口だった。湯釜は草津白根山の主要な火口の一つで、鮮やかな黄緑色の火口湖が観光スポットになっている。2014〜2016年にかけて湯釜周辺での活動が活発化し、気象庁は湯釜を含む草津白根山の警戒レベルを引き上げていた。
しかし今回噴火したのは、湯釜から約2km離れた本白根山の鏡池付近だった。本白根山には近年の顕著な活動記録がなく、地震計のデータにも噴火直前まで目立った前兆は現れなかった。
火山は複数の火口を持つことがある。一つの火口を監視していても、別の火口からの噴火を予知することは難しい。観測機器の配置・監視体制の設計が「よく知られた活動的な火口」に集中しやすいという構造的な問題があった。
スキー場での噴火:「活火山の上でスキーをする」リスク
草津国際スキー場は活火山の山腹に広がるスキー場だ。観光地として人気を誇る草津温泉に隣接しており、多くのスキー客が訪れる。活火山の上でのリスクと観光・レジャーの両立は、日本各地の火山性地域で共通する課題だ。
御嶽山(2014年)の事故と同様に、スキー場・観光施設は多くの人が集まる場所であり、噴火が起きた場合の被害は深刻になりやすい。「噴火の可能性が低い」と評価された場所でも、噴火は起きる——この事実が、活火山周辺の観光・レジャー施設の安全対策に問いを突きつけた。
陸上自衛隊が訓練中に被災
死亡した1名と負傷者の一部は、スキー場で訓練中の陸上自衛隊員だった。自衛隊員は民間スキー客と同じゲレンデで訓練を行っており、噴石に直撃された。軍の訓練施設として活火山近くのスキー場を使用することへの安全管理についても問いが生じた。
この事故が変えたもの
- 複数火口を持つ火山の観測体制の強化:気象庁が「活動的な火口以外の火口周辺」の観測機器配置を見直し、観測網の充実を進めた
- スキー場など観光施設への避難設備整備の促進:噴石から身を守るシェルターの設置が推奨された
- 活火山法に基づく避難計画の見直し:草津白根山周辺自治体の避難計画が改訂され、本白根山を含む全体的なリスク評価が行われた
- 「レベル1」でも噴火が起きうるという認識の普及:噴火警戒レベル1は「危険がない」ではなく「通常の活火山の状態」であることの周知が強化された
死亡した自衛隊員:訓練中の悲劇
死亡した陸上自衛隊員は、第12旅団(群馬県相馬原駐屯地)所属の1等陸曹(当時49歳)だった。スキー訓練中に噴石が直撃した。自衛隊は草津白根山周辺でのスキー訓練を定期的に行っており、この日も複数の隊員が訓練中だった。火山の近くでの訓練における安全管理——特に「レベル1の活火山でも突然噴火する可能性がある」という認識のもとでの対応——が問われた。この事故後、自衛隊は活火山周辺での野外訓練の安全基準を見直した。一人の隊員の死が、組織の安全文化を変える起点となった。
草津温泉への観光への影響:地域経済と火山リスク
噴火後、草津国際スキー場の一部ゲレンデは閉鎖され、入山規制が設けられた。草津温泉は年間約300万人が訪れる日本有数の温泉地だが、噴火によって観光客が激減する恐れがあった。実際には温泉街への直接的な被害はなく、比較的早期に観光は回復したが、「活火山の上の観光地」というリスクの管理が課題として浮き彫りになった。観光資源としての火山と、安全管理のコスト——この両立は、日本の多くの火山性温泉地が抱える共通の課題だ。
草津白根山の噴火は、日本の火山観測に「見えていない火口への対応」という新たな課題を突きつけた。気象庁は全国111の活火山を監視しているが、一つの火山に複数の火口がある場合、「活動的でない火口」への観測機器の配備は限られる。この事故後、気象庁は全国の活火山における観測体制の見直しを行い、主要な火口以外にも監視センサーを追加設置する方針を打ち出した。しかし財政的制約の中で全ての潜在的な火口を網羅することは難しく、「観測されていない火口からの噴火」というリスクは完全には解消できない。1名の自衛隊員の死が、この不完全性に直面させた。
草津白根山の噴火から7年近くが経過した2025年現在、本白根山の噴火警戒レベルは「1(活火山であることに留意)」に戻っている。草津国際スキー場は2019年のシーズンから一部ゲレンデの営業を再開し、観光地としての草津温泉は多くの訪問者を迎えている。しかし「レベル1でも噴火は起きる」という2018年の経験は、関係者の記憶に刻まれている。「賑やかな観光地の裏側にある火山のリスク」と「観光地としての経済的活力の維持」——この両立の答えを、草津は今も模索し続けている。
探偵コラム:「監視していた場所ではない場所」が噴火する
御嶽山(2014年)と草津白根山(2018年)の事故には共通のパターンがある。「活発な活動が知られていた場所ではない場所」での突然の噴火だ。観測・監視は「リスクが高いと思われる場所」に集中しやすい。しかし自然は「監視されていない場所」から牙を剥く。
これは火山だけでなく、あらゆるリスク管理に共通する問いだ。「気づいていないリスク」は「知っているリスク」より危険だ。「ここは安全だ」という評価が固まった瞬間、その場所への警戒が薄れる。1名の死が問いかけるのは「あなたが気づいていないリスクは何か」という、永遠に完全な答えを出せない問いだ。
【参考資料】
・内閣府「草津白根山の噴火に関する対策」(2018年)
・気象庁「草津白根山の火山活動解説資料」(2018年1月)
・火山噴火予知連絡会「草津白根山の噴火に関する緊急評価」(2018年)
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